🌾 農業知識0から米農家へ|初めての田起こしと土づくり

今年は、来年から始まる本格的な米作りに向けた「準備の一年」です。
まだ田植えまでは行いませんが、田んぼを整え、機械に慣れ、地域の方々に教わりながら、少しずつ農家の一年の流れを体で感じています。
その中でも、最初に取り組んだのが「田起こし」と「土づくり」。
どちらも稲作の基礎となる大切な工程であり、実際にやってみることで“農業の奥深さ”を改めて知ることができました。


◆ 田起こしとは何をする作業か

田起こしは、冬の間に固く締まった田んぼの土をトラクターでほぐし、前の年の稲株や雑草を土の中にすき込む作業です。
微生物がそれらを分解することで、やわらかく栄養のある土へと生まれ変わります。

地域のベテラン農家さんが「田起こしは、田んぼに空気を吸わせる作業や」と教えてくれました。
その言葉を思い出しながらトラクターを走らせていると、ひっくり返した土の間からふわっと立ちのぼる土の匂いが、まるで田んぼが息をしているように感じられます。


◆ トラクターとの出会いと練習

ぼくの倉庫には、近所のおじさんが置いているトラクターがあります。
「好きに使っていい」と言ってくれて、この一年、そのトラクターを使って練習させてもらうことになりました。

最初はエンジンをかけるのも怖く、ギア操作やロータリーの扱いに悪戦苦闘。
何度もエンストしながら、「機械の扱いって奥が深いな」と痛感しました。
それでも少しずつ慣れてくると、トラクターを動かすこと自体が楽しくなり、まっすぐな耕うんの跡が残ると小さな達成感を覚えます。
トラクターは、田んぼと自分をつなぐ頼もしい相棒です。


◆ 草刈りと田起こしのタイミング

ある日、草刈りをして数日後にトラクターを入れたところ、長い草がロータリーに巻きついてしまいました。
おじさんに話すと、「草は刈ったらすぐすけ。長うなると絡まるし、前の跡が見えんようになるで」と教えてくれました。

次に草刈り直後に試してみると、作業が驚くほどスムーズ。
草が短いだけで、トラクターの進み方も軽く感じました。
たった数日の違いでも結果が大きく変わることに驚きつつ、「経験の言葉は本当に重いな」と実感しました。


◆ 土の“手触り”を覚える

何度も田んぼに入って作業をしていると、少しずつ「いい土」の感触がわかるようになってきました。
乾きすぎた田んぼではトラクターが跳ね、湿りすぎるとタイヤが沈みます。
おじさん曰く、「サクッと軽い音がするときが一番ええ」そうです。

ある日、その“サクッ”という音を自分の耳で聞いたとき、なぜか嬉しくなりました。
その瞬間、ロータリーがきれいに土を返し、田んぼ全体が明るい茶色に変わっていく。
感覚で覚える作業は難しいですが、その分、身体に染み込むような学びがあります。


◆ 天気との付き合い方

田起こしは天気との勝負でもあります。
雨が続くと田んぼがぬかるみ、トラクターが簡単に埋まってしまいます。
晴れが数日続いたあとに行うのが理想ですが、思い通りにはいきません。

農業を始めてから、天気予報を以前より真剣に見るようになりました。
「今日は風が強いから乾くかな」「明日は雨っぽいからやめとこう」
そんなふうに、空と相談しながら作業のタイミングを決める毎日です。
空の色や風の湿り気が、田んぼの状態を教えてくれるようになりました。


◆ 田んぼごとの個性

田起こしをしていて感じるのは、田んぼにもそれぞれ個性があるということです。
日当たりの良い田んぼは乾きやすく、低い場所の田んぼは水が抜けにくい。
同じ地域でも、土の色や匂い、触り心地が少しずつ違います。

おじさんは「田んぼは人と同じで、一枚一枚に顔がある」と言います。
その言葉の意味が、少しずつわかってきた気がします。
田んぼに向き合う時間が増えるほど、土の表情が見えてくるようになりました。


◆ 土づくりは“待つ”作業

田起こしのあとには、堆肥や稲わらを混ぜて土づくりを行います。
すぐに変化が見えるわけではありませんが、冬の間に微生物がゆっくりと分解を進めてくれます。
春にはふかふかとした柔らかい土に変わり、その上で稲が力強く育つのだそうです。

「見えないところで育つものを信じる」——
それが、農業における“待つ力”なのかもしれません。
少しずつ、自分の中でもそんな感覚が育ちつつあります。


◆ 準備の一年が教えてくれたこと

こうして田起こしや土づくりを経験してみて、来年への期待がますます膨らんでいます。
まだ失敗ばかりですが、トラクターを降りてまっすぐに伸びた耕うん跡を眺めていると、
「この土の上に、来年は稲が育つんだな」と思えて胸が熱くなりました。

焦らず、確実に。
地域の方々に教わりながら、一歩ずつ“米農家”としての基礎を積み上げていきたいと思います。

◆ 次回予告

次回は「冬の田んぼと農家の過ごし方」について。
田んぼが雪や霜に覆われる季節にも、農家には大切な仕事があります。
機械のメンテナンスや来年に向けた準備、地域の冬の風景などを通して、
「農閑期にも続く米作りの営み」をお届けします。

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